大牟田市に日本唯一のカルタ専門の博物館があります。
それは、安土桃山時代(約450年前!)に日本最古のカルタ「天正カルタ」が作られていたという歴史に由来。
そう、大牟田市は “日本のカルタ発祥の地”なのです!

そんな歴史を紐解いていくうちに、
カルタだけではなくその前後で繋がる“イラスト文化”が大牟田市に根付いている…?
そんな面白い仮説が立ちました。

ちょっと凄くて、面白い…そんな大牟田市の「絵」巻。
ご紹介します!

古今東西、世界のカルタが勢ぞろい!

「三池カルタ・歴史資料館」

まずは、大牟田市動物園の近くにある「三池カルタ・歴史資料館」へ。

外観

市立図書館を併設した「カルタックスおおむた」にあります。
開放的な館内には珍しいカルタがずらり!

館内

まず拝見したいのが、やっぱり「天正カルタ」です。
こちらには復元した全48枚が展示されていました。

「復元天正カルタ」
▲「復元天正カルタ」

この「天正カルタ」、主に賭け事に使用されていたため、
江戸時代に出された禁止令によりほぼ捨てられたのだそう。
実は現存するものはたった1枚しかありません。

その貴重なカルタは、兵庫県芦屋市の「滴翠美術館」に現物が保存されていますが、
その表面には「三池住貞次(みいけじゅうさだつぐ)」と記されています。
それは「三池(現在の大牟田)に住んでいる貞次が作ったもの」という意味。
遠く関西で発見された「天正カルタ」がここ大牟田で作られていたということ!

右が表面。「三池住貞次」の文字が!画像協力:滴翠美術館
▲右が表面。「三池住貞次」の文字が!画像協力:滴翠美術館

カルタは16世紀半ばから南蛮貿易で長崎に来ていたポルトガルの船員たちから伝わりました。
その後筑後国三池地方(=現大牟田市)で日本オリジナルのカードゲーム「天正カルタ」が誕生したとみられ、様々な文献で「三池賀留多(ミイケガルタ)」の名前が記されているほか、「よきものは三池」と呼ばれるほど質が良かったことも伺えます。

航海の船中、カードを楽しんでいたポルトガルの船員たちの様子
▲航海の船中、カードを楽しんでいたポルトガルの船員たちの様子
梶原さん

「三池カルタ・歴史資料館」の館長である梶原さんにお話を伺いました。

「カルタというのは四角い小さな紙を指します。つまり“カード”と同じですね。この『天正カルタ』から、花札や現在のカルタが誕生しました。昔は賭け事に使用されていましたが、現在は競技かるたのほか、集中力や記憶力を養う知育玩具としても親しまれていますね。」

貝に描かれた上の句と下の句で合わせる「貝覆い」
▲貝に描かれた上の句と下の句で合わせる「貝覆い」

「日本にも、平安時代から『貝覆い』などで絵合わせの文化がありました。ボルトガルから伝来した『カルタ』も融合したことにより日本独自のカルタが誕生したのでしょうね。」

スペインの円型のカード
▲スペインの円型のカード

館内を見回すと、世界各国のカードが展示されています。
伝わったのは、やはり大航海時代に貿易で立ち寄った港がある国ばかり。

イタリアのタロットカード(複製)。画家に描かせたカードで現存する最古のものだとか!
▲イタリアのタロットカード(複製)。画家に描かせたカードで現存する最古のものだとか!

三池地方で作られたカルタの質が高かったのに理由はあったのでしょうか?
梶原さんに聞いてみました。

「職人さん気質の方が昔から三池地方に多かったのかもしれません。手すき和紙が名産の八女が近くにあったので、絵を描ける環境も整っていたことも要因としてあるかもかしれませんね。」

インドネシアの「オミカルタ」
▲インドネシアの「オミカルタ」。これも手描き!カードの数は7まで。国によってルールが変わるのも面白いです。

取材時は「新収蔵カルタ展」を開催しており、現在販売されている人気アニメのカルタなども展示していました。その他、郷土カルタや大牟田市オリジナルのカルタなども展示しており、カラフルなカルタを見るだけでも楽しいです!
様々な企画展を常時開催されているそうなので、そちらも楽しみですね。

そして、出入口奥には畳の間があり、誰でも自由にカルタで遊ぶこともできます。
梶原さんは言います。
「カルタの魅力は、字が読めない小さな子供からお年寄りまで、みんな一緒に楽しめること。家族での時間にコミュニケーションツールとしてぜひカルタで遊んでもらいたいです。」

カルタの貸出も受付ています!
▲カルタの貸出も受け付けています!

カルタの文化を学ぶ…なんて堅苦しいことはなく、
カラフルなカルタを作品として見たり、時間があればカルタで遊ぶのもOK。
気軽に訪れてみてくださいね。

三池カルタ・歴史資料館

大牟田市宝坂町2-2-3

0944538780

入館無料 (外部リンク)

10時から17時

月曜・月の最終木曜休(祝日の場合翌日)

絵本や人と出会う場所

「ともだちや絵本美術館」

外観

2021年10月に誕生した「ともだちや絵本美術館」は、大牟田市出身の絵詞(えことば)作家である内田麟太郎さんのコンテや代表作「おれたち!ともだち」シリーズの原画の展示、その他絵本が楽しめる部屋もある“絵本と触れ合える”場所です。

絵本ファンの方なら、ああこのシーン!と感動する原画がたくさん。作画は降矢ななさん
▲絵本ファンの方なら、ああこのシーン!と感動する原画がたくさん。作画は降矢ななさん

「大牟田市動物園」の敷地内にあるため、
動物園を回る途中に絵本美術館に寄るというルートに。

兼行さん

キュレーターの兼行さんにお話を伺いました。

「まず、2014年に商工会議所による商店街の空き店舗を利用した「まちなか絵本ギャラリー」が実施されました。その後実行委員会が組織され、「ともだちや絵本ギャラリー」というイベントを経て、2021年に完成しました。」

人気絵本「おれたち!ともだち」のキャラクター・きつねくん
▲人気絵本「おれたち!ともだち」のキャラクター・きつねくん

実は、この美術館の設立については、内田麟太郎さんから動物園への絵本ギャラリー設置の提案をいただいたのだそうです。

絵本を見ている子供が、動物園で生きた動物たちを観賞した後、絵本の世界も楽しめる
…そんな素敵な企画から完成しました!

絵本を自由に読める「ともだちルーム」
▲絵本を自由に読める「ともだちルーム」

だから「ともだちや絵本美術館」では、絵本をきっかけに、親子の絆はもちろん作り手である作家やショップの店主など、様々な出会いの場を作っています。

「のんびりホール」には簡単なキッチンもあり、ミルクを作ったりお弁当を食べたりも可能
▲「のんびりホール」には簡単なキッチンもあり、ミルクを作ったりお弁当を食べたりも可能

子供たちが絵本を楽しめる「ともだちルーム」は色んな絵本との出会いを、自由に休憩できる「のんびりホール」では定期的なワークショップを開催し、絵本作家との触れ合いや、ものづくりをするショップ店主を招いたマルシェなどを企画・実行しています。

「のんびりホール」に展示されている絵本。色分けされていて可愛い!
▲「のんびりホール」に展示されている絵本。色分けされていて可愛い!
「のんびりホール」に展示されているチェアは、動物園にいる生き物をイメージ
▲「のんびりホール」に展示されているチェアは、動物園にいる生き物をイメージ。右からツキノワグマ、ライオン、リスザル、ウサギ、オウギバト!

ワークショップの企画に関しては、「絵本」や「動物園」、そして「社会とのつながり」を感じる物語を大切にされているそう。

例えば、2022年に企画した「わくわくてつどうワークショップ」では、オリジナルの電車を制作、電車が登場する絵本の世界を巡るすごろく大会を開催。

電車好きな子供たちが大喜び!
▲電車好きな子供たちが大喜び!

同じく2022年開催した「しんぶんどうぶつえん」では、身近にある新聞紙を使った動物の被り物を制作。大牟田市動物園を舞台にした物語を作りました!

しんぶんどうぶつえん

また現在では「深いり絵本カフェ」という研究を行い、絵本との新たな関わりを作り出すプログラムも開発しているのだとか!こちらも楽しみです!

最後に売店「ミュージアムショップ」にも注目を!

売店

動物をテーマにした商品が揃いますが、どれも本当に可愛い!!
これらはすべて大量生産ではなくものづくり作家さんやショップ店主さんが手掛けたもの。

手作りの動物キーホルダー
▲手作りの動物キーホルダー
「カピバラ焼きドーナツ」と「なまけものビスケット」
▲「カピバラ焼きドーナツ」と「なまけものビスケット」このキュートさ!食べられません!

実はこちらの美術館、廃校になった地元の小中学校の備品も再利用。
訪れる人の中には、「自分が通っていた時のものだ!」と懐かしい出会いもあるそうです。

色んな出会いを与えてくれる絵本美術館、将来はどんな姿になっていると思いますか?
そう伺うと、
「今やっているワークショップで出会いの場が増えていって、大牟田市の人たちに“私たちが育てた美術館”と思ってもらえるようになりたいです。」
と兼行さんは教えてくださいました。

絵本や人、もの…色んな物語との出会いがある、「みんなで育てる美術館」。
動物園の後でも、ぜひ立ちよってみてください。きっと素敵な物語との出会いが待っていますよ。

ともだちや絵本美術館

大牟田市若宮町2-1

0944328050

入館料/一般500円、小中学生100円、未就学児無料(動物園の入館料に含まれる) (外部リンク)

9時30分から17時(12月から2月は16時30分まで)

第2・4月曜休、12/29~1/1

え?あの有名漫画家も!大牟田市出身の漫画家たち!

「石炭産業科学館」

また、大牟田市は漫画家を多数輩出しているまちでもあります。

「ポーの一族」や「トーマの心臓」など、少女漫画家の第一人者として知られ、女性マンガ家で初の春の紫綬褒章を受章した萩尾望都さん、「マカロニほうれん荘」などギャグ漫画で伝説的な存在となった鴨川つばめさん、「あばれブン屋」「TOUGH」などを執筆、今なお連載執筆し活躍する猿渡哲也さんなどなど。

萩尾望都さんなど名だたる作家の作品を展示
▲萩尾望都さんなど名だたる作家の作品を展示

前述のカルタにもありましたが、大牟田市には職人肌の方が多いと言われます。
一つの道をとことん突き詰める専門職…そういうと炭鉱で働く炭鉱マンもそうなのかもしれません。

また、諸説はありますが炭鉱全盛時代には、市内のあちこちに炭鉱住宅が軒を連ね、住む人たちの間で、漫画を借りたり描いたりするといった遊びが流行したことから、そんな背景がイラストや物語作りに親しむ文化につながったのでは、とも言われます。

「石炭産業科学館」では、年に1回程度市出身の漫画家の作品を展示する企画が実施されます。

2023年は6月ごろに企画展示する予定
▲2023年は6月ごろに企画展示する予定

企画展では、大牟田出身の漫画家の作品を多数展示するので、お見逃しなく。

2021年5月にリニューアルし、見やすく楽しめる施設になった「石炭産業科学館」では、実際に採炭作業現場を再現した模擬坑道やゲーム感覚でエネルギーを学べる体験コーナーもいっぱい。漫画展と一緒に楽しんでください!

実際の機械を展示!すごい迫力です
▲実際の機械を展示!すごい迫力です
外観
館内

石炭産業科学館

大牟田市岬町6-23

0944532377

入館料/高校生以上420円、4歳から中学生210円 (外部リンク)

9時30分から17時

月曜休(祝日の場合は翌平日)、12/29から1/3

安土桃山時代のカルタ版画、そして漫画や絵本でのイラストや物語…。イラスト文化が受け継がれている、というと言い過ぎかもしれませんが。大牟田の人たちはもしかすると、古来より画力や想像力を遊びの中で培っていたのかもしれませんね。

バラエティ豊かな3施設で、そんなイラスト文化を感じてみてはいかがでしょう。