渋酒めぐり編、若者酒場編とはしご酒取材で多様な酒場をかいま見た大牟田酒場巡り隊。

大牟田の人は一晩に4軒も5軒も呑み歩くことも珍しくないということや、訪れた老舗やきとり店がもともとは大牟田川沿いの屋台から始まったという地元住民でも知らなかったちょっと昔の話を聞きつけ、大牟田ならではの独自の酒場文化がありそうだと感じました。

そんな大牟田の酒場事情をもっと知りたくなった大牟田酒場巡り隊は、大牟田市の経済と酒場事情を30年以上見つめてきた大牟田商工会議所の山科さんを訪ねました。
炭鉱とともに栄えた大牟田の酒場事情に迫ります。

今回、取材した山科さん。歓楽街からほど近い旧商工会議所(平成27年3月迄使用、現在は「aurea」)にてお話を伺いました。

飲みたい時に飲めるまち それが大牟田!

結論から申し上げると、大牟田は「飲みたい時に飲めるまち」です。
大牟田商工会議所に入所して31年目。入所1日目から飲みに繰り出している山科さんの言葉は明快でした。

山科さんが就職のために大牟田へ来たのは、バブルの好景気ムードがまだ残る平成5年(1993年)。その頃の人口は15万人ほど。

大牟田市の人口のピークは昭和34年(1959年)208,887人、令和6年(2024年)3月1日時点106,145人と、現在と比べるとほぼ倍。
戦後から銀座通りが栄え、新栄町駅が栄町駅から移転され新しく駅ができ、駅とともに新しい街ができていきました。
デパートなどの商業施設が続々出店し、新栄町駅通りも発展。山科さんが入所した当初は最盛期で賑わいを一番感じられる時代。
20万都市のまちであったため、規模の大きい施設が多数ありました。

「まだ炭鉱が閉山する前(※1)で、炭鉱用の鉄道も通っていたし、まちの中心部には大型の商業施設(※2)がありました。老舗といわれるような飲食店もまだ営業していて、『ここで大牟田の経済が動いている!』と言われるような活気が残っていました。とにかく大牟田の人たちは飲み方が違うんですよ。強いし、飲む時間が長い(笑)」。

北海道出身で大木町(福岡県三潴郡)育ちの山科さんは、ある意味“よそ者”。だからこそ見える、大牟田独特の文化を語ってくれました。
「大牟田は三交代勤務の炭鉱労働者や製造業の従事者が多いので、社交の場や"飲みたい"願望を叶えるお店が繁盛していました」。

冒頭の言葉はここにつながります。労働者たちが仕事終わりに飲む。酒屋が角打ちになり、食堂が大衆酒場になり、軽い食事を出す屋台が並ぶ。
今でこそ大牟田川沿いに並ぶ屋台の姿はありませんが、昼飲み文化は健在です。
昭和25年(1950年)創業の老舗店「やきとり元禄」は、まさに、その源流を受け継ぐ象徴のような店でしょう。朝・昼・晩問わず、酒を提供する場ができたのは、自然な流れだったようです。

----《補足》----
※1…平成9年(1997年)三池炭鉱閉山。
※2…1993年時点で、新栄町駅ビルにエマックス、駅前に井筒屋、サンリブ、銀座通り商店街に松屋など数多くの大型商業施設があった。 

社交の場と気軽な場が混在する大牟田独自の酒場文化

「着目したいのは大牟田の歓楽街の入り混じった状態です。他の都市では社交の場で使われるエリアと気軽に飲むエリアが区別されていることが多いですよね。例えば東京の場合は社交の場が銀座や赤坂、気軽な場が新橋や六本木。福岡市なら中洲と大名や親富孝通りが区別されるように、です。でも大牟田は混在して立地しているんです」

労働者たちが集う歓楽街が栄える一方で、炭鉱関係者などの接待の場として、格式の高い料亭や小料理屋、クラブなども狭いエリアに充実することになります。
三池炭鉱と三池港をつなぐ三池炭鉱専用鉄道沿いには、従業員用社宅が点在していました。自ずと人々の生活圏に、酒を提供する店が集まります。
人口20万人ほどだった昭和39年(1964年)時点で、料亭が11軒(※3)。さらには、券番(芸妓が所属し、お座敷の取次ぎを行なったりする事務所)も存在しました。
その他、クラブやキャバレーなど様々な種類の飲食店が数多くありました。

また、炭鉱労働者や関係者によって人口が集中していた、大牟田南西部の三池港に近い三川町は、大牟田市と合併する昭和4年(1929年)以前から三池炭鉱とともに発展を遂げ、独自の文化を築いていました。
大牟田には歴史と照らし合わせてより細かく見ていくと、歓楽エリアとしても独自の文化をもつ地区があるようです。

----《補足》----
※3…参考文献:「大牟田市各界職業別人名銘鑑」昭和39年版,大牟田日日新聞社 より
        料亭・組合外料亭の掲載店舗のうち料亭の数を記載。
        (昭和39年は人口199,481人(世帯数47,742)。)

三池炭鉱の社宅図。三池炭鉱と三池港をつなぐ専用鉄道があり、駅の周りに従業員社宅が点在していたことがわかる。(写真:大牟田市石炭産業科学館の所有資料を撮影)

大牟田酒場のいまとこれから

三井三池炭鉱が閉山からまもなく26年。山科さんはその一部始終を大牟田で暮らす一人として見てきました。

ショッピングセンターができ、核家族化によって車社会が定着すると、駅前や商店街に集中していた活気は分散され、公共の交通機関を使わない時代が訪れます。
しかし、郊外型の経済圏が発達しても、飲むことだけは変わらず中心部。山科さんは、人口減や社会状況の変化も含めて、前向きに捉えているようです。

大牟田全域の地図を広げて各特長を説明していただきました。
地図に残っていない情報は手書きで。

「まちの様子がどんなに変わっても歩いて行ける場所、公共の交通機関の必要な飲み文化は、まちの中心部に需要が残る。それは今も昔も変わらないんです。通っていた店の多くが閉店しましたが、最近は40代ぐらいの経営者が、後継者としてや独立開業するケースが増えているんですよ」。
山科さんは、今なお活気を帯びる大牟田の歓楽街には可能性があると話します。

歓楽街として古くからあるエリアは大正町、寿通り、有楽町通り、年金通り、みやまえ通りあたりだが最近では新しいお店が増えているエリアもあると。

寿通り
年金通り

1つ目は、銀座通り商店街。松屋デパートが撤退後、空き店舗が目立っていたエリアですが、平成27年度(2015年)から始まった「街なかストリートデザイン事業」により大牟田市と商工会議所、地域のまちづくり会社と連携し、空き店舗が活用され、少しずつ飲食店を中心とした個人店が増えていきました。

2つ目は、大牟田駅から大正町に向かうエリア。
大牟田駅西口のにぎわい創出の一環で令和3年(2021年)に駅前広場内にカフェができ、その後、主に昼営業のお店が徐々に増えており、時代とともに街のにぎわい場所は移り変わっていくことが感じ取られます。
おおまかな位置としては、新栄町駅~大牟田駅間にあり、徒歩圏内で行き来できる距離の範囲内に収まっています。

大牟田銀座通商店街。イタリアン、中華、フレンチなど多国籍な飲食店が集まる通りになった。
大牟田駅西口駅前広場の市電にカフェができその後、クレープ屋、ジェラート屋など立て続けにオープン。

「コロナ禍で、昼飲み文化が再評価されたこともあって、昼から飲めるお店も出てきました。若い経営者が多く、自分たちでイベントを企画してファンを増やしている店もあります。横のつながりも強いから、一体感があるコンパクトなエリアの魅力が高まっていると感じています」。

そして山科さんは今日も、いきつけの店へ足を運びます。やってきたのは「やきとり元禄」。
なじみの大将とあいさつを交わし、注文せずとも「いつもの」ビールがテーブルに置かれ、すぐに1杯目を飲み干します。「最近は健康のことを考えて締めのラーメンは控えているんですよ」と笑う山科さんですが、「居酒屋→バー→居酒屋」がはしご酒の定番コースだそう。

「これからは、酒を提供する場所にも“行きたくなる演出”ができるかどうかが問われていると思います。ですが、大牟田は、今までの歴史を強みにして、新たな飲み文化の革命が起こせるまちでもあると思っています」と期待を滲ませながら語ってくれました。

編集後記

学生時代は地理が大の得意科目だったという山科さん。独自の視点で大牟田のまちを観察しながら、その変遷を分析し語ってくださいました。事前にまとめていただいたレポートはなんとA4用紙5枚分。ここには収まりきれない濃厚な情報がつまっていました。

興味深かったのは、甘いもの文化の視点です。
いわゆる炭鉱労働者が仕事終わりに手ごろに食べられる”甘いもの”として「草木饅頭」や「かすてら饅頭」などの和菓子が好まれて、大牟田の菓子文化が栄えたという理由はおなじみかと思いますが実は、それだけではありませんでした。
炭鉱関係者の接待のための受け皿として、料亭が増えたという点は本文でも触れました。その時に、手土産用の菓子が重宝されことも理由の一つ。かつ、東京からのお客様を喜ばせるために質の高いお菓子を求められたこともあり、大牟田では美味しい和菓子が昔から作られていたのです。
さらには、「菊水堂さんの菓子箱の包装にはテープを使わない紙と紐だけで包装する見事な技がある」との豆知識も。
誰かが語り継がなくては埋もれてしまいそうな粋な文化が、今も残っていることに、心が躍ります。

残念ながら、大牟田の酒場事情に関する資料はほとんど残っていないというのが実状です。そこから派生するように発展してきた風習や文化、歴史と柔軟に結びついてきた人々の営みこそに、大牟田ならではの価値が眠っているようにも感じます。また機会を見つけて、掘り下げてみたいと思うヒントをたくさんいただきました。

昼から飲めるお店はこちら。

粋魚がく

いけすも完備し、旬の活魚をその場で調理。
定食や丼ものが充実し、ランチにもよいが、単品で小鉢もたくさん用意されている。
小鉢は陳列棚からセルフで取るスタイル。
ビール、ハイボール、焼酎、日本酒と日本酒の飲み比べセットが990円。
営業は11時からなので昼前から思う存分飲めます。

1番の人気メニューはランチ限定海鮮丼。1日限定10食!!

粋魚がく

福岡県大牟田市笹林町1丁目1-14

0944566678

営業時間:11時〜21時

定休日:日曜日(月2回ほど)

やきとり2番

大牟田で安くたくさん食べたいときはこちら、やきとり2番。
店舗の外に新しく野外スペースが作られ、コンテナ席、テラス席ができて昼飲みができるように時代に合わせて進化しています。
お得な昼飲みプランもあります。
12時半からがっつりたっぷり飲めます。

やきとり二番

〒8360047
福岡県大牟田市大正町1丁目3-5

0944569245

公式ホームページ (外部リンク)

店内営業:12:30~24:00(L.O.23:30) テイクアウト:12:30~

定休日:火曜日、水曜日

Nido

“FARM TO TABLE”がコンセプト。
自然に寄り添った、この土地らしい料理を楽しめるお店。

水曜~土曜まではコース料理のみですが、日曜は気軽に楽しんで欲しいと小皿料理のアラカルト(単品注文)ができる。
日曜は15時~21時までの営業。
ナチュラルワインやビール、日本酒などと一緒にゆっくりと食事を楽しみたい方におススメ。

Nido

〒8360046
福岡県大牟田市本町1-2-13

0944858283

Instagram (外部リンク)

水曜日 ランチ(要予約)、木・金・土曜日 ディナー(要予約)、日曜日 (予約不要、予約可)15:00〜

定休日:月曜日・火曜日

肉居酒屋若男(youngman)

肉をメインとした肉居酒屋。"若男"と書いて(ヤングマン)と呼びます。
店主が大牟田の昼飲み文化が好きで、月に1回程度、昼飲み営業を実施中。
人気メニューは熱々鉄板のハンバーク。

肉居酒屋若男(youngman)

〒8360046
福岡県大牟田市本町1-5-17 第3カンカンビル1階

営業時間:18時〜23時 定期的に昼営業を実施

定休日:日曜日