大牟田の夏に勢いをもたらす「大蛇山」。どこからともなく聴こえてくる鐘の音に、大牟田市民であれば誰しもが「今年も夏がきたな」と胸を弾ませることでしょう。歴史ある「大蛇山」のエネルギーがまちを飲み込むかのように、大牟田市民のエネルギーとなり、多くの人たちを魅了し続けています。

今回はそんな大牟田市民の誇りともいえる「大蛇山」当日の様子をご紹介します。
2024年衹園六山巡行の一番山を務めた「大牟田神社第二区衹園」(以下、第二区)を取材。実はおまつりでのパレードだけではない、「大蛇山」の2日間をレポートします。

【祭礼行事としての大蛇山】

悪疫退散、五穀豊穣、無病息災を祈願して奉納される大牟田市内六つの大蛇山は、三池地方(※1)で始まった衹園祭が起源とされています。
(※1…現在の大牟田市三池の本町と新町)
衹園六山の各神社が大蛇山を祭礼行事として奉納しています。
一年を通して、祭礼としてのさまざまな行事や衹園祭の活動がありますが、"おおむた「大蛇山」まつり”はその「本祭」として、2日間に渡って開催されています。

【7月27日(土)おおむた「大蛇山」まつり1日目】

【第二区衹園祭(前日祭)】入魂式・地域巡行

7月27日土曜日、午前9時半。令和6年度の第二区衹園祭がいよいよ始まります。
おおむた「大蛇山」まつりとしては1日目ですが、大牟田神社では前日祭(※2)として神事が始まります。
(※2…第二区衹園祭での呼び方)

まずは、神社の境内へ参拝し、その後の入魂式が行われます。氏子衆の手で完成させた大蛇に魂を吹き込むと、いよいよ衹園祭が幕を開けます。

入魂式の様子。
大山の初めての巡行が始まります
清めの酒とホラ貝の轟音で祭りは静から動へ
総勢300名近い氏子衆を引き連れて大山が動きはじめます

大蛇が火を吐くのは、田畑の害虫駆除を行い、五穀豊穣を願うため。火煙は家の中に入れて、悪疫退散を願うためと言い伝えられています。大蛇山が地域を練り歩くのはそのためです。火薬を使用するのは、全国的にも珍しいとされ、古いしきたりとともに伝承されている祭りであることがうかがえます。

太鼓、小太鼓、大鐘、小鐘、笛のお囃子がかけ声と一体となって鳴り響きます。
旧松屋前鎮座位置を出発し銀座地区・住吉地区を中心に巡行します
女神輿による扇子を舞わせた華やかな踊り

巨大な大蛇を操るかのように氏子衆たちの威勢が飛び交います。「ヨイサ・ヨイヤサ」の掛け声に合わせて子どもたちが奏でる樂の音色がまちにさらなる一体感を生みます。

巡行を追うと、巨大な大蛇が細い路地を通り抜ける大迫力の瞬間にも出会えます。

【六山競演で幕を閉じる初日】

夕刻になると、衹園六山の各山が巡行の披露を終え、一同に介する六山巡行が始まります。六山競演とも呼ばれる大蛇山祭り最大の見どころのひとつです。

各々の地区からおまつり広場に集まる衹園六山
競演直前、第二区と三区八劍神社(以下「三区」)の女神輿たちが部隊の前に陣を取り競演します。華のある舞いに一呼吸すると、勇ましい六山競演が始まります。
衹園六山の大蛇が一同に介し、火の粉を撒き散らしながら通りを行き交います。
花火と煙幕を飛ばし合う姿にギャラリーも釘付けとなります。

【7月28日(日)おおむた「大蛇山」まつり2日目】

大正町のおまつり広場ではちびっこ大蛇・ちびっこみこしが巡行します。また、地域山による大蛇山集合パレードが開催されます。

一方、第二区衹園祭の2日目は「当日祭」と呼ばれ、古来より2日目が本来の祭典日(※3)とされています。
(※3…大牟田神社第二区衹園での呼び方)
午前中の入魂式から始まり、各山がそれぞれの町内を巡行・かませが行われます。

御神体である大蛇の口に、子どもを「かませ」ると、その子の一年間の無病息災が約束され、泣くほどにご利益があると伝えられています。(写真:大牟田神社公式HPより)
1日目に続き、2日目も地域を巡行します

【第二区衹園祭(当日祭)】大山崩し

夕刻を過ぎ、大蛇山はこの年の最後の出陣へ。いよいよクライマックスへと突入します。

松明の明かりに浮かび上がる大蛇山を前に、氏子衆が一堂に集まる最後の決起の様子。一体となって祭りを作り上げてきたそれぞれの思いが溢れます。
大蛇が大山崩し巡行の神事へと出発します。
競演の前にお出迎えの準備を整えます
巡行で競演する三区の大蛇山が目の前にやってきました
建物ギリギリを行く大蛇。第二区と三区の競演では互いに体を擦り合うようにして行き交う様子に圧倒されます。

巡行を終えると、各神社へ帰り、魂を抜くための抜魂式があり、その後「山崩し」が行われます。御神体である大蛇の一部を神棚や玄関にお祀りすると神威にあやかると伝えられています。

第二区は銀座通り商店街のアーケードに鎮座し、大牟田神社の宮司によって御霊上げの払いを行います。
激しい大蛇山の最後の巡行を終えて大山崩しを待つ間も女神輿の掛け声はやみません。「ヨイサ・ヨイヤサ」の声が余韻と共に耳に残ります。
大蛇の小牙やうろこなどをはずして授ける準備をします。
大蛇が取り崩しされる中、山の周辺に子どもたちが集まります。合図と共に争奪戦が繰り広げられます。

大蛇は地区によって、大蛇の顔や形、色にも特徴が異なりますが、大きさは全長約10メートル、高さ約5メートル、重さ約3トンにもなります。その山車を曳く勇壮な氏子衆と「ヨイサ・ヨイヤサ」の掛け声とともに子どもたちが奏でる樂の音色。火花を撒き散らしながらまちを練り歩き、フィナーレに向かうにつれて激しさを増す大蛇。集まったギャラリーは、囃子と掛け声、火薬の匂いと火の粉にまみれながら、目の前で繰り広げられる大蛇の猛威に、まるで昔話の中に入り込んだかのような幻想的な時間を体感します。

現代にもなお、昔の原型をとどめ、守り継がれている大牟田の大蛇山は、唯一無二の祭礼とも言えます。祭りが好きという純粋な思いは、大牟田市民としての誇りにつながっているようです。一度立ち会えば、たちまち大蛇山の虜になることでしょう。

令和6年度 衹園祭を終え、最後に

二区衹園會の会長 神崎さん

平成29年から8年間、二区衹園會の会長を務めた神崎一也さん。物心ついた時から大蛇山に携わってこられ、会長を務めることになったときは「身の引き締まる思いでした」と語ります。「未来永劫、50年先、100年先へと大蛇山を受け継いでいくためにどうあるべきか、というのを若い子たちにもよく話をしています。子どもたちも少なくなってきていますし、担い手が減る中で、今できることを精一杯やろうという気持ちで、会長を務めさせていただきました」と力強く話してくださいました。

二区衹園會の皆様、ありがとうございました。

【二区衹園會】
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【参考:大牟田神社 大蛇山衹園祭】
https://omuta-jinja.or.jp/daijya

 

※補足
祭礼神事である衹園祭や御神体である大蛇山については、その歴史、しきたりは神社ごとに違いがあり、「大蛇山の顔や入り」「ホラ貝の吹き方」「樂(がく)・奏樂(そうがく)・囃子(はやし)」「掛け声」「山車の動かし方」など特色があります。
こちらの記事では、「大牟田神社第二区衹園」の取材をもとにまとめております。